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2025.08.14
「金融教育は“生きる力”を育てる」——てらこややすべえ・中野靖之氏が語る、資本主義と人間力のバランス【SIGHTSNESS】

SIGHTS KYOTOコワーキングスペースの契約企業のメンバーやニシザワステイの取引先、SIGHTSに関わる方々に向けてお届けするビジネス対談企画「SIGHTSNESS」第3弾。今回は、「日本の金融リテラシーを世界一にする」というビジョンを掲げ金融リテラシー教育に従事している、てらこややすべえの中野靖之氏とSIGHTS KYOTO代表・西澤徹生が、金融教育で目指す未来を語ります。

ロンドンの証券マンから金融教育家へ

徹生:本日は、「日本の金融リテラシーを世界一にする」というビジョンを掲げていらっしゃる中野さんにお話を伺います。まず、中野さんが独立し、てらこややすべえを始めるに至るまでの経緯を教えてください。

中野さん:はい。僕は1976年2月1日、静岡県静岡市で生まれ、すぐに神奈川県鎌倉市に引っ越しました。小中高と神奈川で過ごし、大学は一人暮らしをしたくて京都へ。京都大学の工学部で工業化学科を専攻しました。まさか将来、金融教育をやるとは思っていませんでしたね。大学では石炭の熱分解の研究などをしていました。

徹生:それがなぜ金融の世界に?

中野さん:就職活動中にたまたま読んだ『就職ジャーナル』という雑誌で、「世の中にはいろんな業界があるんだ」と気づいて。化学以外にも面白そうな仕事があるなと思い、いろんな企業の説明会に行っていたところ、野村證券とバイブスが合ったというか、面接が楽しかったんですよね。それが入社の決め手でした。

徹生:野村證券では営業職だったんですか?

中野さん:いえ、トレーダーでした。株などの金融商品を売買する仕事ですね。野村では約10年、東京とロンドンで働き、その後は東京で外資系に挑戦したいと思い、シティグループに転職しました。リーマンショック前後の5年ほど勤務して、そこから部下を持つ経験をしたいと思い、三菱UFJモルガン・スタンレーに移ってプレイングマネージャーとして10人ほどのチームを率いました。

徹生:なるほど、華やかなキャリアですね。そこから金融教育へ?

中野さん:きっかけは当時流行った「プロボノ活動」でした。本業のスキルを活かして社会貢献する取り組みですね。「子どもたちに勉強を教えたい」と思って、当時住んでいた恵比寿で「てらこややすべえ」を立ち上げました。公民館を借りて貼り紙で「無料で勉強教えます」と人を集めて。ある日、参加していた子どもの保護者から「これ、証券会社の方なら分かると思って」と確定拠出年金の商品選択の紙を「埋めて」と渡されたんです。

そのときに鈍器で殴られたような衝撃を受けました。「子どもたちに勉強を教えるのも大事だけど、大人にも金融を教えることがすごく必要だ」と気づかされたんです。僕には教えるのが好きという強みもあったし、金融の知識もある。これはやるしかないと。当時はまだ平日は証券会社で働いていたので、土日に神保町の「みらい研究所」さんで金融教育の講座をさせてもらったりしました。

 

独立そして、金融教育の道へ

中野さん:金融教育を始めたものの、本業との両立はやはり大変で。「週3勤務にして、残りは金融教育に使いたい」と職場に相談したんですが、「中野さんは課長なんだからダメ」と言われてしまった。そのときに「本当にやりたいのは何だろう?」と自分に問い直して、やっぱり、やりたいのは金融教育だと。そして忘れもしない2017年の東京駅にて。妻を呼び出して、「辞めようと思う」と伝えたんです。妻も薄々気づいていたようで、すぐに受け入れてくれました。

徹生:いいパートナーですね!そこから京都へ移住されたんですね?

中野さん:はい。ゆくゆくは京都に住みたいと終の棲家用の家を買っていたんです。それを少し前倒しにして移住しました。

徹生:京都に来てから、ビジネスをどう進めていったんですか?

中野さん:家はあったものの当時はノープランで。金融教育をすることだけを決めているという状態だったんです。まずは枚方と四条烏丸で会議室を借りて、“金融リテラシーを1から学ぶ講座”を始めました。最初は本当に手探りで、「映画1本観るくらいの値段かな」と思って、1時間半の講座を1,500円で開催しました。最初は数人集まる程度でしたが、地道に続けていたことで、後に企業から声がかかったり、長くつながる人もできたりしました。

徹生:今も企業向けの講座をされているんですよね。どのような内容なのですか?

中野さん:新入社員研修を中心に、1時間半や5時間といった枠で、金融の仕組みや資産形成などを伝える内容です。営業を一切していなくて、すべて口コミや紹介で広がっていったんです。なので、リピート率はとても高いですね。

徹生:すごい!それだけ講座の価値が伝わっているということですね。一般向けと企業向けで、内容は変えるのですか?

中野さん:企業特有の制度については多少アレンジしますが、基本的な金融リテラシーの構造はあまり変わりません。「ビッグスリークエスチョン」と呼ばれる、金融リテラシーの世界的に有名な問いかけから始めることが多いです。「金利とは?」「インフレとは?」「分散投資のメリットとは?」これを理解してもらって、枝葉に分かれていくという感じですね。

 

真の金融リテラシーを伝える!「中野ゼミ」の教育

徹生: 大人の金融教育から、現在学生向けの金融講座「中野ゼミ」を開いておられます。その経緯はどのようなものだったのですか?

​​中野さん:僕が通っていた京都大学MBAで論文の指導をしてくださった先生が声をかけてくれたことがきっかけでした。そのときに、大学生は、金融という観点から社会に出る前の大切な時期にいて、学ぶための時間がある。そんな大学生たちに金融教育をして、学生とのかかわりで僕自身も勉強したいと思ったんです。正式な単位がもらえるゼミではなく、学ぶこと自体を楽しむ“学びのサークル”的な存在として2022年12月に「中野ゼミ」を始めました。

徹生:「中野ゼミ・コイキング」って名前なんですよね。

中野さん:ポケモンの「コイキング」って戦闘力がとても弱いんですが、進化すると「ギャラドス」という強力なポケモンになるんです。卒業したゼミ生を「ギャラドス」と呼んでいて、社会におけるギャラドスを目指そうという願いから名付けたんです。火水木金、トータルで7コマやっています。学生たちが自発的に「早く始めたい」と言ってくるほど意欲的に取り組んでくれています。現在、在籍しているのは34人。ゼミ生の成長を見るのが本当に楽しくて。学生と関わるなかで僕自身も学びがあるんです。今日これから金融リテラシーグループの講座があるんですが、そこでは「若年層への金融リテラシー教育はどうあるべきか」を考えています。具体的には、アメリカで子どもたちへの金融教育として掲げている「物を買うにはお金が必要です」とか「クレジットカードを使うことはローンでの借入と同じです」などというマイルストーンの、日本版を作ろうということをしているのですが、僕たちは、もう少し「人間力」という視点から作ろうとしています。

徹生:アメリカの金融教育は、資本主義を生きていく目的が大きいかと思いますが、お金は目的ではなく手段という視点を大切にされているんですね。

中野さん:そうなんです。金融教育をしている立場にもかかわらず、僕はよく「お金は大事なものではない」なんて言ってしまうんですけど、資本主義のなかでは現金が大事だけど、社会では信用や信頼、コミュニティが大事なんですよね。

徹生:なるほど。資本主義の中での金融教育ではなく、より広い視野での教育「ライフリテラシー」を教育されているんですね。

 

資本主義社会を豊かにするために“ギャラドスを輩出”することが大切

徹生:ゼミを卒業したギャラドスたちのエピソードなど、印象に残っていることはありますか?

中野さん:つい最近、ギャラドスの一人が名刺を持って訪ねてきてくれました。自主的に学び続ける姿勢がしっかり根づいていて、「ああ、やってきたことは間違ってなかったな」と感慨深かったですね。僕は「倫理観をもった高度人材を輩出したい」という強い想いがあります。僕が考える倫理観というのは、「損得より善悪を優先する」という考え方。お金儲けは悪ではないけれど、「いいことをして儲けよう」という価値観を広めたいんです。

徹生:ビジネスになるとつい「儲かればOK」となりがちですが、それは違うということですよね。

中野さん:そうです。例えば、町を壊して宿泊施設を建てる。ビジネスという視点では収入があるけれど、善悪という観点で見ればどうか?という話です。資本市場は、金融商品を売る人と金融商品を買う人と監督官庁の三者で成り立っているので、金融商品の買い手のレベルを上げるだけではなく、倫理観をもった高度人材=ギャラドスを輩出して社会に送り込むことで、三位一体になって資本市場がより良くなると思っているんです。

徹生:最近では、子ども向けの金融教育にも力を入れていると伺いました。

中野さん:そうなんです。でも金融教育って難しくて、下手すると「行き過ぎた教育」になりかねない。小学生に「お金儲けが大事」と教えると、お金に執着してしまう恐れもある。だから僕は「お金を主語にしない」教育を意識しています。

徹生:「お金を主語にしない」?

中野さん:「もし“感謝のコイン”があったら、誰に渡したいですか?」と問いかけてみる。すると、「お母さん」「友達」「自分」といろんな答えが出てくるんです。そこから「じゃあ感謝を伝える手段として、感謝のコインがない時はどうする?お金を使うのは一つの方法ですよね」と話を展開していく。

徹生:すごく自然で、優しい入り口ですね。

中野さん:一般的な貯金箱と違って、4つの口があるブタの形の貯金箱があります。知育玩具とも言えるんですが、「貯める」「使う」「増やす(投資)」「譲る(寄付)」という4つの部屋に分かれています。日本人って「貯める」に偏りがちで、他の使い方を知らない人が多いんですよ。でも、たとえ現金がなくても、人と人が信頼でつながっていれば交換が成り立つ。本来のお金って、そういう人のつながりの延長にあるべきじゃないかって思うんです。

徹生:お金は楽しく生きるための手段であるべきですよね。

 

「楽しむ」という中野流の価値観

中野さん:最近中野ゼミの価値観に「Joy and Fun」を加えたんです。やっぱり物事って楽しくないとダメだなと思う。考えてみると僕はずっと何事も楽しんでやってきたんですよ。自分のためとか人のため、社会のためとか気にせずに、何でも楽しむモードが大事だと思うんですよね。例えば1人の時間が楽しいと思って、4人になった瞬間に楽しくないとか思うと損でしょ。4人で楽しもうと思えばいい。それが秘訣かなと思う。と言いながら、この対談めちゃくちゃ緊張してスタートしたんだけど(笑)

徹生:(笑) でも僕たちも同じで「世のため、人のためで、おもしろく。」を経営理念にしています。今、社会課題解決みたいな動きが結構ありますが、社会のためと自己犠牲をしてしまっている人が増えている気がする。僕は仕事もSIGHTS KYOTOも楽しい場所にしたいなと思っているんですよね。 だから、いろんなことを考えるなかで、「それはおもろいか?」と自問するようにしています。

中野さん:似てますね。金融教育は、一人ひとりの価値観や環境が違うし目指すものも違うので難しい。それぞれの人に伴走するから、老後のために貯蓄を勧める一方で、畑仕事をしていると食べていけるからそんなに貯めなくていいという例もある。それがマスで伝わると誤解も起きてしまう。でも、普遍的な概念があって「お金は生きるために最も大事なものではないよ」ということなんですよね。これを伝えることが真の金融教育だと僕は思っている。

徹生:そんな中野さんがわざわざ別のコワーキングから引っ越してSIGHTS KYOTOに登記をしてくれた。ゼミ小屋があるにもかかわらず登記をしてくださってるのは、理由があるんですか?

中野さん:サイツ愛にあふれているから(笑) というか「もうそこにあるもの」になっているんですよね。場所として、「気」がいいんですよ。アイデアが降ってきやすいし、居心地がいいので自分のすべてを発揮できるんですよね。ここでコワーキングをするときは、良いアウトプットをするという明確な目的をもって来てるんです!

徹生:ありがとうございます!最後に今の夢を聞かせてください。

中野さん:日本の金融リテラシーを世界一にするとともにノーベル賞の受賞です。目指すのは自由なので目指しているんですが、最近は正直少し難しいなと思っている(笑)

徹生:(笑)

中野さん:でも世の中に良いインパクトを与えることは、ノーベル賞と同等の価値があると思うんです。なので良いインパクトは与えたいと思っています。その先に「ノーベル経済学賞」があってもいいな(笑)

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