2030年に開業を目指す「SIGHTS HOTEL」。実は水面下で、秘密裏にプロジェクトは進められているとか、いないとか……?この連載では、「SIGHTS HOTEL」が完成するまでに至った苦悩や試行錯誤の様子や姿を、ありのままに映していきます。ぜひ、読者の方も一緒に「SIGHTS HOTEL」を考え、妄想してもらうきっかけ作りになれば良いなと思っています!
具体的には、主に「SIGHTS HOTEL」についてゼロから考える「クレイジーキルト」で議論された内容を踏まえ、西澤夫妻が得た気づきや学びをまとめていきます。連載企画のインタビュアーを務めるのは俵谷龍佑(たわらや・りゅうすけ)です。西澤夫妻とは1988年生まれ、同世代!
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後編では、秘密裏に「SIGHTS HOTEL」を進めているプロジェクトの「クレイジーキルト」の全貌に!「アウフヘーベン」や「具体と抽象」など、ビジネスパーソンにとって学び深い話も……!?
まだ世の中にない新しいホテルの概念を、他の人とゼロから創る
「クレイジーキルト」のメンバーは、どのようにして集まったのでしょうか?
徹生さん:SIGHTS KYOTOの会員さんに中小企業診断士の方がいて、去年の夏ぐらいにSIGHTS HOTELの構想について相談したんです。そこで「何人か集めてざっくばらんに飲みながら議論をするのがええんちゃう」みたいな話になって。
奈月さん:「じゃあ、私たちで人を集めてみます」と、会員・非会員関係なくさまざまなジャンルから1人ずつピックアップしました。
徹生さん:全体の人数については9名以下にしました。というのも、SIGHTS KYOTOのカウンター席がちょうど9席なので収まりが良いかなと。
メンバー構成について教えてください。
徹生さん:さっきお話しした中小企業診断士が1人、大学職員が1人、金融教育家が1人、弁護士が1人、京都市職員が1人、金融機関役員が1人、 京都老舗企業社員が1人、大手広告代理店社員が1人という構成です。
奈月さん:本当に業種はバラバラですね。年齢は下が30代、上が50代半ばです。全員お金を払って相談に乗ってもらうようなスキルをもった方々ばかりだし、忙しくて個別でアポイントを取れない方もいますね。それなのに、こうやって定期的に集まってくれるのはほんまにありがたいです。
どのように会議は進められているのでしょうか?
徹生さん:2023年11月末に第1回目を開催をしたのですが、あえて何も伝えず「とりあえず来てください」と呼びかけました。参加する人は、誰が来るか、どれだけの人数がいるかも知らないし、緊張感漂っていましたね(笑)。
奈月さん:そこで「世界一のホテルをやりたいと思ってるんですよ」と伝えたら「世界一とはどういう意味?」となって(笑)。
徹生さん:僕も奈月も、あえて中身をみせずに喋り出そうという方向で進めたんです。
奈月さん:だから、ホテルのサイズや機能、部屋数といった具体的なプランは一切話しませんでした。
徹生さん:抽象的なことを話していたら、「そもそも、ホテルでなくても良いんじゃない?」という意見も出て。僕らとしては、ホテルを作ることありきで事業計画を立てるのではなくて、 そもそも論をしたかったんです。
基本的には、アジェンダなしで進めていく形でしょうか?
徹生さん:そうですね。1回目の会議で「エフェクチュエーション」について発言した人が「第2回目は具体と抽象だね」と言ったんですよ。要は、第1回がとても抽象的だったんです。次は具体と抽象を行き来した方が良いと指南してくれたんですよね。
なぜ、具体と抽象が重要かについてもう少し説明すると、どうやら抽象度が高い人が見えている視点と、抽象度が低い人が見えている視点は違うみたいなんです。これは優劣の話ではなく性質の話で。なので、2回目までに「なんでもええから紙に書いてきてくれ」という宿題を出されました。
奈月さん:お題はホテルのコンセプトだったと思うのですが、「みんながハッピーな状態」ぐらいの感じで書いたんですね。私たちは、みんなでコンセプトを考えるつもりだったので、あえて抽象的に書いたんです。そうしたら「おもしろくないね」と言われてムカついて(笑)。
徹生さん:ただ、叩き台がないと議論が進まないと言われたんですね。「なるほど、叩き台がないと議論のしようがないんや」と思って。ちなみに、第2回の時は奈月は昼間にお客様といっぱい飲んでいたので、出来上がっていたんですよ。
だから、途中から議論に業を煮やして、ホテルや世の中に対するアンチテーゼをばんばん発言するようになったんです。そしたら、みんな「おもろいやん」と笑ってて。最終的に、第3回目までに奈月が考える「アンチテーゼ」をまとめるという結論になりました。
奈月さん:私が本音でばーっと話したことで、メンバー同士打ち解けてみんなのキャラクターもわかってきました。それで、第3回の時にはメンバーの1人がみんなの性格を理解するためのグループワークをしようと提案してくれたんです。
みんなでつくる、みんなのためのホテル。多くの人の思いや誇りであふれる場所へ
いよいよ、プロジェクトっぽい動きになってきましたね。
徹生さん:みんなで16Personalitiesを受けて、お互いの性格を共有しました。ちなみに、少し重苦しい空気が漂っていた第1回目から、バシバシと切り込んで私たちに質問してくれたメンバーは指揮系統をする性質をもつ指揮官だったんです。そこから彼のニックネームは「指揮官」になりました(笑)。
1回目は、初対面ということもあって皆少し固かったのですが、指揮官は怯まずに僕らの考えを引き出す質問を投げかけてくれてはったんですよ。毎回みんなが「指揮官すごいな」と言ってて。
奈月さん:皆優秀な人たちだから、普段はまとめ役や引き出し役になっているけど、この場では聞き役として楽しめると言ってました。16Personalitiesでメンバー全員の性格をわかっているから、意地悪っぽい質問をされても「考えを引き出すために動いてくれているんだろう」と思えて、怯まずに答えられるようになりましたね。
徹生さん:第3回までにお互いがリスペクトし合う関係を作ろうと思っていて、そこは一定達成できたかなと思っています。それぞれのメンバーに個別で会うときも「良いチームだよね」と言ってくれるんですよ。
最初の2回目で議論の進め方を決めて、3回目でメンバー同士の性質や特性を知り、4回目は具体的な話が進む感じですか?
奈月さん:そうですね。私が3回目の会議で話した中に「ラグジュアリー」というキーワードがあって。だから4回目では「奈月ラグジュアリー」を資料にまとめる予定です。アンチテーゼやラグジュアリーを紐解いていけば、「どう社会を変えたいか」「西澤夫妻を突き動かしているものは何か」といった、いわゆるホテルの核となる部分が見えてくるのかなと。
徹生さん:指揮官は、アンチテーゼから何か手掛かりになるようなヒントを得ようとしているんですね。そもそも、アンチテーゼという用語も弁証法に基づいてるんです。アンチテーゼの反対語は正とされているテーゼといいます。
アンチテーゼがテーゼとぶつかって議論がなされて1つの答えが出ると。どちらの主張も切り捨てずに、1段高いレベルで出た結論を「ジンテーゼ(合)」というらしいんですよ。そして、この一個上がる現象を「アウフヘーベン」といいます。
奈月さん:「次、奈月のアンチテーゼを出してくれ」と言われて、改めてアンチテーゼについて調べてみたら「あれ、弁証法をやってるやん!」ってなったんです。
徹生さん:そうそう。まだ世の中にないホテルを作るなら、1段上がったホテルを作る必要があって。だから、あえて指揮官はジンテーゼを導き出すためにアンチテーゼを引き出したんですよね。ほんまにすごい!(笑)
二人で主体的に進め、他のメンバーに助言をもらう形も取れたかと思います。なぜ今回、あえて「クレイジーキルト」のメンバーを巻き込むスタイルにしたのですか?
徹生さん:SIGHTS HOTELでは「みんなでホテルを作る」ことを大切にしているからです。というのも、僕と奈月だけでSIGHTS HOTELを立ち上げたら独りよがりなホテルになるなと感じたんです。SIGHTS KYOTOのメンバーや取引先だけじゃなくて、SIGHTS KYOTOと関わりが薄い人も巻き込んで意見を出してもらうことが大切かなと思って。
奈月さん:もちろん、SIGHTS KYOTOのメンバーや取引先の思いも入るんですけど、そうではない人たちの思いや誇りをどこまで集められるかがカギになると思っていて。多分私たちが考える世界一は、自分のホテルと思える人や自分の誇りと思う人の総数が他と比べて圧倒的に多く存在することなんだと思うんです。
確かにすでに2人が決めたところに後から関わっても、ジブンゴト化はしにくいですよね!
徹生さん:そうそう!俵谷さんにホテルができるまでの過程をインタビューしてもらうのも新しいホテルの作り方だなと思ってて。
奈月さん:もちろん、結果的にホテルになっていない可能性すらもある(笑)。「途中まではホテルの話をしていたけど、そこからすごい変わったんや」とか、竣工直前で契約ができなかった話とか、「予算が合わなくてそれをどう乗り切ったか」など、ホテルができるまでの過程を生々しく共有できたら良いなと思っていて。この連載を読んでもらうと、「なんでSIGHTS HOTELはおもろいんやろ?なるほど!こういう作り方でスタートしたから、他とは違うホテルなんだ!」とわかってもらえるかなと。
今後、「クレイジーキルト」以外のメンバーがSIGHTS HOTELの立ち上げに関わることはできますか?
奈月さん:クレイジーキルトはブレーンの集まりやけど、もう少し具体的になってきたら、「職人の会」や「文化人の会」といった分化のプロジェクトを立ち上げることはあるかもしれません。
徹生さん:ただ、SIGHTS KYOTOのカウンターは9席なので、プロジェクトメンバーの上限は9人に絞りたいですね。そこはこだわってて。みんなで議論できる規模もそのくらいがちょうど良いですし。
SIGHTS HOTELの海外展開や国内展開の可能性は考えていますか?
徹生さん:基本的に、その土地に思い入れがある人が立ち上げた方が良いと思ってます。もちろん、京都以外で思い入れのある土地ができたら他の地域にも展開するかもしれないですね。なので、概念(ソフト)だけを輸出する可能性はあります。それは、事業戦略的にフランチャイズ展開をするかもしれないし、むしろそういった縛りは設けずに自分の場所でやりたい人がSIGHTS HOTELのコンセプトを真似してくれても良いと思っているんですよね。
奈月さん:ホテルのニュースタンダードをSIGHTS HOTELで作ることができて、もし世界中に真似してくれる人が増えたら、それはすごい意味のあることなんじゃないかなって思いますね。