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2025.07.27
次世代に安心して継承できる「文化を継ぐ仕組み」をつくる——あっぱれ・山本陽平氏と対談【SIGHTSNESS】

SIGHTS KYOTOコワーキングスペースの契約企業のメンバーやニシザワステイの取引先、SIGHTSに関わる方々に向けてお届けするビジネス対談企画「SIGHTSNESS」第2弾。今回は、文化支援を通じて地域社会の活性化を目指す山本陽平氏と、SIGHTS KYOTO代表・西澤徹生が深掘りトークを展開します。文化を守るためのビジネス戦略、そして継承のあり方に迫ります。

 

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​​▼あっぱれ​​

​​祭りや郷土芸能などの無形文化財から寺社仏閣などの有形文化財まで、長年にわたり受け継がれてきた地域を代表する伝統文化を活用した観光コンテンツの企画プロデュース、販路開拓、プロモーション、運営サポート、事業計画策定まで伴走支援を行う。

https://appare-jp.com/​ 

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文化支援の原点はバックパッカー時代の衝撃体験

徹生:山本さん、今回はお忙しいところありがとうございます!まず、山本さんが文化支援に携わることに至ったルーツを教えてください。

山本さん:こちらこそありがとうございます!ちょっと長くなりますが、大学で国際関係を学びたくて立命館大学に進学したんですが、周囲が英語ペラペラで、僕だけが全然だめで「これはヤバい」と思って海外バックパッカーを始めたのがきっかけです。大学入学後に​海外で衝撃的な体験をしたことがきっかけで、国際協力に興味を持ち始め、徐々に文化への関心へつながっていきました。

徹生:どんな経験だったんですか?

山本さん:カンボジアの路上で、子どもの物乞いに出会ったんです。どうすればいいのかわからなくて、1ドルを渡すのは違うなと代わりに持っていたアメをあげたんです。でも、現地の人から「その子たちは歯を磨く習慣がないから、アメは逆効果。虫歯を促すことになる」って怒られてしまった。“良かれと思った行為”が、相手のためにならないことがあるんだと、痛感しました。 それから国際協力に関心を持ち、フィリピンのゴミ山​やモンゴルの孤児院での支援活動​、アメリカへの留学など​をしました。途上国支援として、​通信関係の​​インフラ​に関わりたい​​​と​思い​、​通信​インフラを手がけるNTT東日本に入社しました。

​​徹生:その後、NTT東日本に就職して企業経験を積んでこられましたが、どんな風に考えが変わっていったんですか?​​​

​​山本さん:NTT​東日本​では​いくつかの部署を経験した後に​国際​展開をしている部署に異動させてもらえ、ブータンやミャンマーなどの国際​プロジェクトに関わるなどやりがいのある仕事にも携わりました。ですが、もともと​各地の文化に触れることが好きで、特に​お祭り​に興味があり、NTT​が関わっているような​​各地祭り​や出張先やプライベートも含めて積極的にお祭り​に参加を​していくようなったんです。​​​

徹生:それが​オマツリジャパン」につながったんですね。

山本さん:はい。最初は​社会人​でのお祭りに行ってちょっとしたお困りごとを支援する​サークルのような形で何人かで始めました。活動を続けるにつれ、お祭りが​ボランティアで運営が成り立っていて、地域が衰退していく中で、​本当に”ヒト・モノ・カネ”が足りないと痛感し、​専門的な支援​の必要性を感じました。​そこで、​2017年ごろから本格的にビジネス化に舵を切り、​インバウンド向けの観光​コンテンツ​企画​や、企業とタイアップしたプロモーション、コンテンツの企画・制作をすることになりました。

徹生:ITからお祭りというフィールドの変化のなかで、価値観は変わりましたか?

山本さん:​一見違うように見えますが、抱えている問題の​構造がよく似ているんです。例えば途上国に多額の​金銭的な​支援をしても貧困解消に至らない​問題があ​りましたが​、​例として​​(金銭)だけ​を​提供するのではなく、魚​(金銭)​の釣り方​(稼ぎ方)​を伝えないといけない​というような具合です​。これは​極端な例ではありますが、海外での​国際協力だけでなく、日本の​地域活性化も同じだと思います。​ただ​伝統​文化には、国際協力のように赤十字や国連などといった​中心的で​大きなプレイヤー​はいません。​​文化を支えている​​​現場の保存会の​方々は、「人とお金が足りない」と困っているのに、それを解決する仕組みを考え、実行​までうつせる機能が大抵ありません。求められているからこそ​、​しっかり提供できる価値を示せれば、​やりがいはものすごく大きいです。

徹生:なるほど、構造や課題が驚くほど似ているんですね。そこからコロナ禍になりお祭りも止まった。

​​山本さん:はい。​当時は​仕事がほぼゼロに近くなりました。でも、​日本政府公​​認の​​祭り​やイベント​のガイドラインを作ったり、​オンラインでの相談支援をしたりと​できる限りの支援を続けました。

徹生:そしてあっぱれが立ち上がったんですね。

山本さん:はい。2024年1月に「あっぱれ」という会社を設立しました。 ​​オマツリ​ジャパンで培ってきた​無形民俗文化財としての祭り​支援のノウハウを、​無形文化だけでなく有形文化まで​“文化財全般”​を支援できるところまで​​支援を​したいと思ったんです。

 

文化支援のノウハウを活かし、「あっぱれ」始動

徹生:支援のノウハウというのは具体的にどういうことですか?

​​山本さん:「​ヒト​​・モノ・カネ」が足りない現場で、​伝統文化を継承するために地域で合意形成した中長期のプランを策定し、具体的にアクションしていくローカル​プレイヤーを育てていくか。​​​その仕組みをつくることです。たとえば郷土料理や伝統芸能といった無形文化財、伝統工芸やお城・寺社仏閣といった有形文化財――これらが抱える悩みって、本質的には​わりと近いんですよね。あっぱれでは、そういった文化財を次世代に継承するための仕組みづくりに取り組んでいます。たとえば、​数万円する​​​​文化の本質を生かした祭りの特別​​​体験コンテンツ​の造成があげられます​。こうした特別体験を、ソフト面の整備や企画段階から支援し、オペレーション・プロモーションまで組み上げていきます。最終的には地元で自走できる体制を作る、というのが目指すところです。

徹生:単に保存するだけではないということですね。​オマツリジャパン​​を離れるときに葛藤などはありましたか?

山本さん:「​​オマツリ​ジャパン」は“​祭り​専門の​支援”、あっぱれは“文化全般支援”と分野は異なるものの、一部フィールドは重なる。​そのため​​​、​うまく棲み分けができるようには今も​意識​はしています​。​実際、祭り関連の仕事は全体の中で2-3割くらいにとどまっています。今では郷土芸能、城、寺社仏閣、伝統工芸、遺跡、住宅、古墳、天然記念物など幅がどんどん広がっています。​あとは単純に「文化を​正しく​理解してビジネスとして支える」​プレイヤーがあまりに​少ないために、​少人数で​​新たに​挑戦することに不安もありましたね。​あっぱれは3人でスタートしました。​

徹生:あっぱれはSIGHTS KYOTOと同様、業務委託のパートナーさんも多数いますが、熱量の均質性を維持するのは難しくないですか?

​​山本さん:​あっぱれには現在社員4人、業務委託は10人ほどいます。​確かに会社としての風土をどう作るかは課題ですね。最近到達した答えは、「自分がやってることが​文化にとって​“あっぱれ”かどうか」で評価するというシンプルな指針です。​​​ いい仕事をしたら「あっぱれ!」って(笑)悪い仕事でも「喝!」とは言いませんが(笑)、価値判断の軸を明確に​してそれぞれが共感できる価値観をつくる​​​こと​が​​​大事だなと思っています。

 

文化は“消費されるコンテンツ”にしてはいけない。継承できる仕組みが必要

徹生:「​祭​り​」から「文化​財全般​」へフィールドが広がったことで、違いや新たに感じたことはありますか?

山本さん:​祭りでは​祭りだけでなくその地域の文化的な背景や由来などを理解して取り組んできました。​祭りって、「​ハレ​の日」と「​​​ケ​の日」っていう考え方をするんです。僕は、​​​ケ​の日、つまり​準備のための​日常の積み重ねの方が大事だと思っています。祭り当日(=​​​ハレ​の日)だけを見ていてはダメで、地域の習慣や風習、日々の営みをどう理解するかが重要。そういう視点で取り組んできたので、無形文化財に対してあまり違和感はなかったです。でも、有形文化財は注意点が​大きく​違います。たとえば、祭りでは「地域の名産を出す」みたいなことが普通にビジネスになりますが、お寺で「魚料理を出す」といった組み合わせはNG。マナーや宗教的な配慮も必要にな​ったりします。

​徹生:バランスが非常にデリケートですね。 起源まで遡り、郷土料理まで含めて文化を捉えてきたからこそ、いま文化観光事業に取り組まれているんですね。そもそも、山本さんが考える「文化観光」とはどういうものですか?

山本さん:​僕が​​取り組んでいる​「文化観光」​は、単純に「文化を​安心して​次世代に継承するため」です。もともと文化財って、​地域の方々の中でも​名士​の方々​が​大なり小なり​投資して​継続してきた​​もの​がとても多いです。いわゆるパトロンです。どんな文化にもパトロンがいて​​、でも​現代に近づくにつれて​名士の方々の数も力​​も​​落ちて​いき​、​代わりに自治体や​国​の補助金が入るようになって​​守るようになった。​公共団体が​補助金で修繕​や保全を​するけれど、それだけでは未来につながらない。​そして補助金の捻出が難しくなってきている中で、これからは安心して継承していくために​​自分たちで稼ぐ仕組みをつくらないと​いけないと考えています。単に稼げれば良いというものではなく、​​​継承のための仕組みが必要になるんですよね。​しっかり事業計画を策定して収入を得るために特別体験やツアーの​販売、グッズ制作、​協賛など​​、​​それらを地元で自走できるようにし、PR・販売​を行い、文化財への還元​まで組み上げるのが文化観光の本質だと思っています。

 

文化継承に必要なのは“地元で回せる仕組み”と“正しい値付け” 

徹生:単純にその文化財を活用するのではなく、仕組みを作る。具体的にどのようなことをするんですか?

山本さん:「100万円の​特別体験は無理でも、1万円ならできる」というように、​地域が持ちうる​リソースの中で​再現性が​​可能な形のすり合わせ​が必要になると思っています。​​​あるいは観点を変えて、特別な文化体験と地域の課題を結びつけるというのも手だったりします。例えば、​祭り​の準備タイミングで地元だけでは​大変なので、「有料体験で​コミュニティに入って​手伝ってもらう」というコンテンツを作る​ことも​​​​考えられます。この場合、​もともと主催者がお金を払って​アルバイト​を集めていたのですが、実は外国人や若者は“お金を払ってでも​ディープなコミュニティ体験を​したい”と​いう​​ニーズもあったりします​。​これらを​​整理してコーディネートす​れば​、​地域で自走していく​​こともあります​​​。こうした仕組みは、インバウンドの観光文化体験にもつながり​、​地域ごとに豊かな​有形無形の伝統​文化があるので、それ​ら​を誘客コンテンツとして展開する余地は大きい​と思います。

ただし、そこで重要なのが「消費されるコンテンツにしてはならない」ということ。価値を伝え、背景にあるストーリーを届けることが不可欠です。たとえば、岡山の西大寺で行われる​西大寺会陽という祭りも、ただ「面白い」「奇祭」で終わってしまうと軽くなってしま​いますが、「実は数百年前から続いている」と歴史や想いを丁寧に伝えることで、その価値は一気に変わってきます。大事なのは、“数百年の重み”をどう届けるか。

​​​また、​​文化観光で必ず出てくるのが、​「プライシングが下手問題」​​です​​​。​​たとえば、​ExpediaなどのOTA​​​で​バリの​ケチャダンス鑑賞体験​が​5000円​​​で売られていて、レビューも高評価。なのに、「日本の文化体験が​500〜​1000円で売られている。なぜ?」と。高くすると責任が伴うとか、「お金儲けはしたくない」とか、理由はいろいろあります。でも、それを続けていると、結局補助金頼りから抜け出せない。地元の人たちと一緒に、時間をかけて​適切な価値で文化に触れる体験を提供​​​していく​ことも​また、文化観光の大切な役割の一つだと思っています。

 

文化の町・京都に身を置き、まちというインフラを構築

徹生:山本さんは、立命館大学時代に京都で過ごされていて、いまSIGHTS KYOTOに登記し、京都に拠点を戻されましたよね。改めて移転のきっかけや、京都への思いについて聞かせてください。

山本さん:東京​​に​かれこれ​15年ほど住んでいたんですが、文化的な仕事をするなら、やっぱり​文化のメッカである​京都に​しっかり​身を置いて、​そこから全国の​文化に携わる​方々​と関わりたいと思ったんです。加えて、ちょうど子どもが生まれたタイミングで、​個人的な願望から川沿いで育てたいという​理由もあり、​家族を持ったタイミングで​京都に戻ることにしました。そして偶然、このSIGHTS KYOTOという素晴らしい場所に出会えて、本当に良かったと思っています。

徹生:実は一回​オマツリ​​ジャパン時代にコワーキングスペースを利用してくださったんですよね。そして​2回目に来られたときに「あの時の人や!」ってなってお声掛けさせてもらった。で、実は文化庁が京都に移転するタイミングだから企業としても京都に拠点を構えたいという話をされたんですよね。

山本さん:そう。普通にオフィスを借りるだけじゃ面白くないなと思っていたところで、声をかけていただけたのはありがたかったです。あの時覚えてもらってなかったら、SIGHTS KYOTOに登記することはなかったかもしれません。(笑)

徹生:僕たちも観光に携わる事業をしていますし、共通の知人もいて、いろいろとつながっていますよね。文化観光と観光は密接だと感じています。

山本さん:そうですね。でも僕自身は「観光」というより、「まちづくり」という軸で考えています。盛り上げるだけでなく、文化観光を起点に“流れ”をどう作っていくか、という視点で動いています。

徹生:うちもまさにそうですね。2~3年前は「観光まちづくり」と言っていたんですが、今は「ソサエティの構築」という方向性で事業を進めています。まちづくりっていうと、普通は不動産とかデベロッパーを思い浮かべがちですが、僕らが考えるのは、「自分たちらしいまちづくり」=「ソサエティづくり」。観光って、あくまでその社会を豊かにする手段だと思うんで、その社会の営みそのものを見てもらうことが大事なんだと思います。

山本さん:そうですね。近い考え方だと思います。

徹生:では、残念ながら時間も来てしまったので…。ありがとうございます。まだまだ聞きたいことがたくさんあるので、また1年後ぜひ再対談させてください!

山本さん:ぜひ!

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