2030年に開業を目指す「SIGHTS HOTEL」。実は水面下で、秘密裏にプロジェクトは進められているとか、いないとか……?この連載では、「SIGHTS HOTEL」が完成するまでに至った苦悩や試行錯誤の様子や姿を、ありのままに映していきます。ぜひ、読者の方も一緒に「SIGHTS HOTEL」を考え、妄想してもらうきっかけ作りになれば良いなと思っています!
具体的には、主に「SIGHTS HOTEL」についてゼロから考える「クレイジーキルト」、そしてそこから派生した「ラディカルサークル※」で議論された内容を踏まえ、西澤夫妻が得た気づきや学びをまとめていきます。連載企画のインタビュアーを務めるのは俵谷龍佑(たわらや・りゅうすけ)です。西澤夫妻とは1988年生まれ、同世代!
Vol.6は、SIGHTS HOTELをどう機能させていくか、そしてそのためにはSIGHTS HOTELはどうあるべきか、について深く追求していく回。SIGHTS HOTELのコアを整理するも、戦略や施策が甘いと指摘され、西澤夫妻に「生煮え罪の有罪判決」が下る?さらに、話は「菌」や「発酵」へと発展。面白いキーワードがザクザク登場します。今回は前編・後編の二部作となっています!
※クレイジーキルトは8名+西澤の会議体です。ラディカルサークルは、そこから”具体に進む前に意味を深める目的”で選出した4名+西澤の会議体です。そして西澤を抜いたこの4名だけで開催されたのが「コンサバティブサークル」です。
CONTENTS
「コンサバティブサークル」が発足

前回は、えぐみを失い、SIGHTS HOTELのあり方について悩みもがいていたところまでお聞きしました。そこから、どのような動きがあったのでしょうか?
奈月さん:えぐみがなくなって、どうしようかと悩んでいたのが前回の流れでした。そんな中、我々を除いたラディカルサークルのメンバー4名が「コンサバティブサークル」という新しい会議体を結成したんですね。こういった動きは今回が初めてで、転換期でもあったと思います。
徹生さん:11月のラディカルサークルの前に、9月と10月に「コンサバティブサークル」のメンバーで2回会議が行われています。1回目は、SIGHTSの顔となるロビーラウンジを意識し、ブライトンホテルのロビーでディナーを堪能しながら議論を進めたと聞きました。このあとに、指揮官から穴埋め式の宿題がだされました。2回目の「コンサバティブサークル」では、私たちが提出した宿題をもとに、議論が行われています。
穴埋め式の宿題は、具体的にどのような内容だったのでしょうか?
奈月さん:ターゲットや規模、コンセプト、戦略、その戦略を進めるための具体的施策などを記述する内容でした。「答案用紙をしっかり埋めなければ」という気持ちが先行して、根拠のないぼんやりした解答になってしまっていたと思います。
徹生さん:「コワーキングスペースなら〇〇」、「ロビーなら〇〇」と部分的に重複する競合は思い当たるのですが、全く同じ形式の施設がなくて。それに、SIGHTS HOTELの規模感も決まっていなかったので、「パークハイアット 京都」や「シックスセンシズ 京都」など、東山区内にある100室以下のラグジュアリーホテルを競合としておいていました。
戦略や施策が「生煮え」で有罪判決?!
ラディカルサークルで発表したところ、皆さんの反応はどうでしたか?
徹生さん:「WELCOME TO OUR SOCIETY」というコンセプトについては、皆同意だったんですね。ただ、戦略や施策については具体性に欠けており、ソサエティ目線で書かれてないというフィードバックをもらいました。僕らが提出した解答用紙が裁判にかけられ、「生煮え罪で有罪判決。執行猶予2ヶ月。戦略1000本ノックの刑」が言い渡されました。
奈月さん:ラディカルサークルのメンバーの中には弁護を生業の人がいて。判決書を作ってきて読み上げるといった本当の裁判さながらで行われました。(笑)手厳しいフィードバックをもらって、私たちはずーんと落ち込んでしまって。
「戦略1000本ノックの刑」というのは、具体的にどのような刑罰ですか?
奈月さん:新たに1000問の課題を出されたわけではなくて、提出した答案用紙を磨き込むために、「とにかく具体的な戦略を出しまくれ!」ということですね。つまり、答案用紙の再提出です。
徹生さん:指揮官は厳しい反面、僕らの心配をしてくださって、ラディカルサークルの翌日にコンサバティブサークルで議論した内容をまとめた資料を送ってくれました。その資料を見ると、コンセプトの「WELCOME TO OUR SOCIETY」や、戦略の肝である「豊かなソサエティ」については同じ意見だったんですね。それをみて、少しホッとしました。
「ソサエティを豊かにする」ことが戦略の肝

フィードバックを踏まえ、次のラディカルサークルまでにどのようなことを思案しましたか?
徹生さん:11月のラディカルサークルのフィードバックはもちろん、指揮官がホワイトボードに書いてくれた「ベゾスナプキン図」を元に、必要な戦略や具体的な施策について考え直しました。

徹生さん:Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏がビジネスモデルを説明する際に、紙ナプキンにボールペンで書いて説明した逸話があるんですよ。一般的には「ループ図」や「フライホイール」と呼ばれますが、私たちの中では「ベゾスナプキン図」と呼んでいます。
SIGHTS HOTELでいうと、ソサエティが喜ぶと、ゲストが喜ぶという仕組みですね。ゲストがSIGHTS HOTELでその体験を口コミに書き、それを見てお客さんが来て、SIGHTS HOTELも喜ぶ。この循環が不可欠です。ただ、ここで重要になるのは「ソサエティを豊かにすることから始める」ということです。
「ソサエティを豊かにすることから始める」とは、具体的にどういうことでしょうか?
奈月さん:わかりやすく、海・釣り堀・釣り公園になぞらえて説明しますね。例えば、整備されていない海だと広いし魚めっちゃおるけど、選別されているわけではない。釣り堀は、同じ魚がぐるぐる泳いでいる。必ず釣れるけど、そんなにすごい魚がいるわけでもないので、釣り人もテンションが上がらない。SIGHTS HOTELが目指すのは釣り公園で、釣り堀じゃないから必ず釣れるかわからへんけど、整備・管理されており、きれいで良質な魚が集まっているみたいなイメージですね。
徹生さん:釣り公園理論でいうと、たくさんゲスト(釣り人)を呼ぶのが先ではなくて、まずは釣り公園を豊かにするのが先なんですね。なぜなら、ゲストにとっては、ソサエティの人たちが楽しそうにしている空気感に混ぜてもらえることが価値だからです。
12月のラディカルサークルでは、再提出した穴埋め問題について、どのような議論が繰り広げられましたか?
徹生さん:「ベゾスナプキン図」などの話って、WhyやWhatの大枠の話なんですね。前回の課題は戦略や施策などHowの部分だったので、「また同じ話を巡っているな」といった感じでした(笑)。もちろん、具体的な施策を出すこともできるのですが、まだ腹落ちしきれていない部分もあって。
奈月さん:WhyやWhatの話をしたのは、帰属意識や愛着というテーマに話をもっていきたくて。以前の宿題では競合の欄にラグジュアリーホテルを列挙していたところを、再提出した宿題には京都ホテル(現:ホテルオークラ)と書きました。昔の京都ホテルのような場所は、地元の人たちが待ち合わせ場所や、大事な時に集まる場所として使っており、生活の一部だったように思ったからです。
徹生さん:ネットがない時代は、昔の人はPUBやホテルのロビーラウンジで情報交換をしていたと思うんすよね。それの現代版が必要じゃないかと思いました。
ソサエティを発酵させる「菌」とは何か?

奈月さん:「ソサエティを豊かにする」をイメージしやすくするために、指揮官が比喩として「発酵」や「菌」の話をしだすんやな。
徹生さん:そうそう。指揮官が12月のラディカルサークルで発酵というヒントをくれたんです。
徹生さん:例えば、お漬物を作る際にはぬか床の容器が必要ですよね。次に、きゅうりや茄子などの素材、かき混ぜたり手間をかけたりする人、発酵を生み出すために不可欠な菌、そしてそれをさらに促進させるための空気や調味料も必要です。この菌こそがソサエティを構成するコア要素なのではないかという話になりました。
なるほど……!確かにとてもイメージしやすいです。
奈月さん:この発酵のプロセスをSIGHTS HOTELに置き換えて話すと、ぬか床の容器はいわゆるホテルの施設(ハード)、きゅうりや茄子などの素材はゲスト、調味料は音楽やアルコールドリンク、かき混ぜたり手間をかけたりするのは西澤夫妻やスタッフ、そして菌はソサエティの人たちなのかな、と。
徹生さん:ソサエティの人たちが主体的にもてなしてくれたり、動いてくれたりしてくれるからこそ、素材が発酵していく。ただ、そのままにしておくのではなくて、きゅうりと菌の距離が遠かったら、我々やスタッフが介在して素材に菌が付着しやすいよう調整を施していきます。より、具体的にSIGHTS HOTELらしい菌は何かと考えたら、やはり「ウェルカミング菌」だろう、と。
「ウェルカム」がキーワードとして登場しまたが、これは求人記事でも話をしていた「空気を察して、場を作り上げる」に通ずる部分でしょうか?
徹生さん:そうですね。ウェルカムの空気感を出すためにも、「こんにちは!どうぞ!」や「次、何飲まれますか?」と、積極的に声かけを行って場を作り上げる姿勢が重要です。
奈月さん:よくスタッフには、「別に誰も明石家さんまになれとは思ってへん」と話しています。圧倒的な司会力や高いトーク力までは求めていなくて、みんなが自分の役割を全うして結果的にSIGHTSらしい空間を作れればそれで結果オーライなわけなんですね。
徹生さん:例えば、『笑っていいとも!』でも、タモリさんはそんなに喋らないけど、空気感をしっかり作っているじゃないですか。『HEY!HEY!HEY!』も同じで、ダウンタウンのお二人が普段はおもしろいこと喋らへんはずのミュージシャンたちの魅力を引き出していますよね。
小さなコミュニケーションの積み重ねが、SIGHTSらしさを生むんですね。
奈月さん:SIGHTS KYOTOを象徴するエピソードがあって。ある常連さんが来店されて、横におった海外の旅行者に自然と話しかけ、地図を広げて観光案内をしていたんです。しばらくして、その常連さんが会計して帰られたんですが、そのとき、初めてSIGHTS KYOTOに来られていたお客さんに「え、待ってください、どこからどこまでがスタッフですか?」といわれたんです。どうやら、「スタッフが横について接客している」と思ってたらしいです(笑)
徹生さん:それでおもろいのが、「はじめてこのお店にきたけど、隣にいた地元の人にとても良くしてもらった」という海外旅行者の口コミめっちゃ多いんですよ。「1杯で帰ろうと思っていたけど、結局閉店までいた」という人も多くて。
そんな感じで、「ウェルカミング菌が重要なのではないか」となったのですが、実は「菌って何種類かあるんじゃないか?」という話になって。というのも、ラディカルサークルのメンバーの中でみても、全員がウェルカミング菌を発揮しているわけではないんですね。結局、菌の種類については深堀りできずに、次回に持ち越しとなりました。
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前編はここまで。後編では「発酵」や発酵に欠かせない「菌」の種類について、さらに深堀りをしていきます!!