2030年に開業を目指す「SIGHTS HOTEL」。実は水面下で、秘密裏にプロジェクトは進められているとか、いないとか……?この連載では、「SIGHTS HOTEL」が完成するまでに至った苦悩や試行錯誤の様子や姿を、ありのままに映していきます。ぜひ、読者の方も一緒に「SIGHTS HOTEL」を考え、妄想してもらうきっかけ作りになれば良いなと思っています!
具体的には、主に「SIGHTS HOTEL」についてゼロから考える「クレイジーキルト」、そしてそこから派生した「ラディカルサークル※」で議論された内容を踏まえ、西澤夫妻が得た気づきや学びをまとめていきます。連載企画のインタビュアーを務めるのは俵谷龍佑(たわらや・りゅうすけ)です。西澤夫妻とは1988年生まれ、同世代!
前回は、戦略や施策が甘いと指摘され、西澤夫妻に「生煮え罪の有罪判決」が下る。しかし、「菌」や「発酵」というメタファーに一筋の光が?今回は、Vol.6後編。「菌」の種類や、どうすれば「発酵」はより促進されるのかといった内容についての議論が展開されます。
※クレイジーキルトは8名+西澤の会議体です。ラディカルサークルは、そこから”具体に進む前に意味を深める目的”で選出した4名+西澤の会議体です。そして西澤を抜いたこの4名だけで開催されたのが「コンサバティブサークル」です。
ソサエティを発酵させる「菌」は3種類だった?

前回は「ウェルカミング菌」が重要なのではないか?ただ、「菌って何種類かあるんじゃないか?」という話で終わりましたね。
奈月さん:以前から「ソサエティにも実は濃淡があるんじゃないか」みたいな話は出ていたんですね。コワーキング会員=ソサエティでもないし、ソサエティの定義は難しいなと思ってて。そんな中、12月のラディカルサークルで指揮官から「菌はいくつか種類があるんじゃないか」というヒントをもらいました。
徹生さん:確かに、ラディカルサークルのメンバーの中でみても、全員がウェルカミング菌を発揮しているわけではないんですね。知恵を頂いたり、経営について壁打ちをしてもらっていたり、一緒にプロジェクトをしたりしている仲間もいるわけじゃないですか。だから、ウェルカミングしてる人だけがSIGHTS KYOTOを構成しているかというと違和感があって。
年末年始は、ひたすらAIに壁打ちしながら「菌とはなんだろう」と考えていましたね。そうしたところ、ウェルカミング菌、ブレンド菌、リファラル菌の3つに分類できることがわかりました。
それぞれの菌の役割について教えてください。
奈月さん:ウェルカミング菌は、読んで字のごとし、来たお客さんを歓迎する役割です。チェックイン時や立ち飲みカウンターで初対面のゲストに話しかけて交流の接点を作り出します。
ブレンド菌は、コワーキングスペースの会員で拠点として利用してくれていたり、またはイベントを主催して参加者を集めてくれたりといった動きをするイメージです。
最後のリファラル菌は、頻繁にSIGHTS KYOTOのロビーに来るわけではないけれど、人を紹介してくれたり、新規プロジェクトを持ち込んでくれたりする存在です。
徹生さん:「この人はウェルカミング菌」「この人はブレンド菌」と性格のように特定の人と紐づいているわけではないです。同じ人が、あるときはウェルカミング菌、あるときはブレンド菌になるといったように、場面や状況によって変わることもあります。
ものすごくわかりやすいメタファーですね。SIGHTS HOTELでどう人が動いているのかがイメージしやすくなりました。
奈月さん:今回、資料をまとめて思ったのが、これまで、具体的な戦略や施策が出せなかったのは「複数の菌によってソサエティを構成しようとしていたから」だということに気がつきましたね。
ウェルカミング菌、ブレンド菌、リファラル菌の出現率をアップさせるには、それぞれ異なる方法を考えないといけません。ただ、今まではウェルカミング菌を中心に考えていたから、ピンとこなかったんです。菌の分類をしてから、具体的な施策が思い浮かぶようになりました。
徹生さん:例えば、チェックインが集中する15時から18時の時間帯には、カウンター周辺にウェルカミング菌を配置できるようにしたいといったように、かなり具体的な絵がイメージできたんです。このように、施策が明確になれば「どんなロビーラウンジの構造や配置が良いか」「どんなスペースが必要か」も自然と考えられるようになりました。
奈月さん:あと、菌のバランスも重要なんですね。ウェルカミング菌だけだと、ただの楽しいバーになってしまうし、プロジェクトは動いているけれど、バーのカウンターはガラガラで活気がなくてウェルカム感がなかったら、それは違うわけで。このバランスを整えていくのも、SIGTHSらしさを保つのに重要だなと思いました。
ソサエティはどう育つのか?菌の視点から考える人のつながり

2月のラディカルサークルで菌の分類や役割について発表したところ、メンバーからはどんな反応がありましたか?
徹生さん:久しぶりに盛り上がりましたね(笑)。出現率アップの再現性や、3種の菌のつながりについては考える余地があるものの、総合的に非常に良いフィードバックをいただきましたね。
奈月さん:8月は「えぐみが足りない」と言われて、11月に「生煮え罪の有罪判決」が下り、12月もパッとせえへんくて、2025年は総じてきつかった年でした。ただ、2月はメンバーから「めっちゃおもろいやん!」と言ってもらえて。一つ壁を超えましたね。
徹生さん:2月のラディカルサークルは、「秘密の部屋」や「せり上がりの舞台」があったら良いかも!と面白いアイデアがたくさん出て、大喜利大会のようになっていました(笑)。
ー「秘密の部屋」や「せり上がり」……!またまた気になるワードが出てきましたね。
奈月さん:ソサエティの人たちが使うことができて、大事な人に宿泊してもらえる部屋があると良いのではという話が出たんですね。名前は、For Our Societyの略でF05室にしようか、とか。ソサエティの人が自由に使える部屋が一つあれば、さまざまな人を連れてくるきっかけになると思って。
徹生さん:その流れで「『せり上がりマシーン』あったら面白いんじゃない?」という話になったんです。舞台とかにある装置です(笑)。利用用途としては、例えば誰かが誕生日会を計画していて、サプライズで誰かを登場させたいときに、この「せり上がりマシーン」を使うといった感じですね。これはもちろん別料金です(笑)。
ー次回に向けて、どのような宿題がでましたか?
徹生さん:「ソサエティが豊かになるとは何か」「ソサエティを豊かにするには何をすべきか」についての深堀りです。ソサエティが豊かになるというのは、多種多様な菌がいることなのか、それぞれの菌のつながりが見えることなのか、またそれをどう実現させていくのか、この辺りをもっと考える必要があります。
奈月さん:私たちから「世界一のホテルをつくりたい!」と言われて訳も分からず招集されたクレイジーキルトのメンバーですが、同じ目標に向かって時間を共にし、気付けばとても深い関係性ができていました。「素敵な出会いに感謝している」と皆さんに言っていただけることが、私たちにとっては何よりうれしいことで。
ただ、振り返ってみると「西澤と誰か」という関係発酵がメインだったんです。クレイジーキルトが発足してから、メンバー同士で飲みに行ったり、仕事の相談をしていたりとソサエティ内で関係発酵が促進されています。しかし、現状はあくまでクレイジーキルト内でしか構築できていません。
徹生さん:ソサエティの人同士がつながり、自発的に混ざり合うのが理想です。今後は、目的やビジョンに向かって何かを一緒に行うプロジェクトを実施していけば、横のつながりも生まれてきて、多様な意見が集まると思うんですよね。
ー構想の段階から、いよいよ小さな実践のステップに進むわけですね。
徹生さん:そうですね。SIGHTS HOTELの開業前に、メンバーシップ制度を立ち上げてみてはどうか、という話もでました。そのメンバーシップ制度の中で、先ほど話したようなプロジェクトを立ち上げることで、今構想しているソサエティが本当に機能するのか、自分たちのビジョンと接続したものになっているのかも把握できます。
奈月さん:最も重要視しているソサエティの構築は、目には見えへんし測りにくいものです。それをメンバーシップという形で可視化しておくことで、投資家や金融機関に提示できる実績が一つできるのではないかという話にもなりましたね。
海外視察で再認識した「ロビーラウンジ」と「客室」の重要な役割

ーロンドンとパリに視察に行かれたそうですね。
奈月さん:はい、ロンドン3泊、パリ3泊の計6泊、全て違うホテルに滞在しました。一番の目玉は「The Ned London」の視察です。旧ミッドランド銀行を改装し建てられたホテルで、開放的なロビーラウンジが特徴なんです。
ただ、このホテルは会員制度も一部導入されているのですが、会員でなくても宿泊できて、またロビーラウンジに隣接しているレストランやBARにも入れます。宿泊客、会員の人、地元の人と多様な人が入り混じっていましたね。
ー改めて、今回の海外視察の目的を教えてください。
奈月さん:3つあって、1つめが先ほどもお話しした「ロビーラウンジがどう機能しているか」をみることですね。これが今回の主目的でした。
2つめは、地域性やデザイン性などディテールへのこだわりです。ロンドンやパリのどのホテルも家具やインテリアにこだわっていました。特に印象的だったのが、マレ地区にあるル・グラン・マザラン(Le Grand Mazarin)です。ここは世界展開しているチェーンホテルではなくて、フランスで数件運営している家族経営のところで。ホスピタリティ、清潔感や細部にまでこだわったデザインは圧巻でした。
3つめは、歴史や伝統をどう守り、現代へと受け継いでいるか、という観点です。やはり、世界的にみてもロンドンとパリは歴史のある都市です。
徹生さん:パリはカフェやサロン文化、ロンドンはパブなどの社交場の文化が昔から存在しています。それが、現在はどのような形で残っているのか見てみたくて、パリのカフェやロンドンのパブに数件訪れました。
ー社交場としての形は、どう現在に受け継がれていましたか?
奈月さん:パリのカフェも、ロンドンのパブもグループごとにめっちゃ話している感じでしたね。いわゆる、横のグループ同士が混ざり合っているみたいな光景は見られなかったです。ほんま意図的にやらんと難しいんだなと感じましたね。
徹生さん:2月で寒いのに、パリもロンドンもテラス席で皆飲んでたんですよ。日本とは違う文化ですよね。特にロンドンのパブはほとんどの人が外で立って飲んでいる。何でなのかなと思って室内に入ってみたら、ものすごく暗くて匂いがこもっていたんです。汗臭い感じで(笑)。あまり換気もされていないんでしょうね。
ーおそらく、建物が古くて空調がつけられないんでしょうね。
徹生さん:おっしゃる通り、空調を入れる場合は大きくリノベーションしないといけないです。近年オープンしたパブやレストランは綺麗で快適でしたし、今回泊まったホテルはどこも空調やウォシュレット、床暖房がついていたので、リノベーションは不可能ではなさそうでした。
奈月さん:今回、宿泊したホテルは全て古い建築をリノベーションして建てられていましたが、とても快適でした。伝統を守ることも大切ですが、やはりトイレなど水回りは綺麗な方が良いし、空調はしっかり効いていた方が良い。京町家でもそうですけど、そのあたりは絶対サボったらダメですよね。
ー視察に行ってみて感じた発見や気づきはありましたか?
徹生さん:正直、パリには「よそ者に冷たい」印象がありました。ただ、ホテルのホスピタリティは素晴らしかったし、街全体の雰囲気もそんなことはなかったです。だから、時代は変わっているんだなと思って。京都も良い部分は残しつつも、変えていかなければいけない部分は変わる必要があるんだろうなと思いますね。
奈月さん:今回、視察してみて感じたのは「部屋は寝るだけでいい」とはならんかったですね。以前の取材で、「人と交流する仕掛けを作るからこそ、客室には寝るだけの最低限の機能だけ揃えるのが良いのではないか」といった話もしましたが、実際に旅行ってとても疲れますよね。しかも、今回ロンドンとパリの計6泊は全て違うホテルに滞在しているので、とにかくヘトヘトでした。
徹生さん:The Ned Londonもロビーが顔ですが、部屋に入ったときの高揚感と安心感が印象的でした。ロビーラウンジも部屋も大切だけれども、どちらも別の役割をもっているんだなと改めて認識しました。
奈月さん:ロビーラウンジは活気があって、さまざまな人との交流が生まれる場所。部屋は「今日楽しかったな」や「明日どこに行こうか」と内省をする場所ですね。
また、寝具、パジャマ、家具などのクオリティにこだわるだけでなく、その一つひとつの物語を可視化させたいなと改めて思いましたね。例えば、「このパジャマは誰がどういう思いでSIGHTS HOTELと一緒に作ったのか」、そして「そのソサエティと私たちとの関係性が見える」ようなストーリーブックみたいなものを作れると面白いですね。