祇園四条 徒歩1分|京町家のコワーキングスペース&バー SIGHTS KYOTO

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SIGHTS HOTELの価値を、どう社会へ届けるか──言葉にできない葛藤とジレンマ【SIGHTS HOTEL JOURNEY Vol.7】

2030年に開業を目指す「SIGHTS HOTEL」。実は水面下で、秘密裏にプロジェクトは進められているとか、いないとか……?この連載では、「SIGHTS HOTEL」が完成するまでに至った苦悩や試行錯誤の様子や姿を、ありのままに映していきます。ぜひ、読者の方も一緒に「SIGHTS HOTEL」を考え、妄想してもらうきっかけ作りになれば良いなと思っています!

具体的には、主に「SIGHTS HOTEL」についてゼロから考える「クレイジーキルト」、そしてそこから派生した「ラディカルサークル※」で議論された内容を踏まえ、西澤夫妻が得た気づきや学びをまとめていきます。連載企画のインタビュアーを務めるのは俵谷龍佑(たわらや・りゅうすけ)です。西澤夫妻とは1988年生まれ、同世代!

ラディカルサークルで幾重にも議論がなされ、ついに「菌」や「発酵」というメタファーが登場し、ソサエティの輪郭がそれとなく見えてきた前回。今回は、4周年のパーティーを終えて、満を持してのクレイジーキルト(実に1年ぶり!)の開催となりました。はたしてどのようなことが話し合われたのか、議論はどう進んでいったのか?

※クレイジーキルトは8名+西澤の会議体です。ラディカルサークルは、そこから”具体に進む前に意味を深める目的”で選出した4名+西澤の会議体です。そして西澤を抜いたこの4名だけで開催されたのが「コンサバティブサークル」です。

「規模」よりも「濃さ」。周年イベントで再認識した大切な価値

前回は、ロンドン・パリ視察までお話しを伺いました。帰国後はどのような動きがありましたか?

奈月さん:3月頭に日本に帰国しました。春は繁忙期で、また4月にはSIGHTS KYOTOの4周年パーティーもあったので、バタバタしていましたね。周年パーティーは、昨年同様にSIGHTS KYOTOのコワーキング会員さんやクラフトビールなどを発注している取引先、クレイジーキルトやラディカルサークルのメンバーなど、特定の関係者に絞って声をかけました。クレイジーキルトからはメンバーの一人である銀行常務が出席しました。

徹生さん:実は、4周年パーティーが始まる前に銀行常務が勤める銀行の本店を訪問することになったんです。ラディカルサークルで議論するなかで、どのように資金調達するかという点についてはずっと引っかかっていて。

そんな中、SIGHTS KYOTOによく来てくれる仲間の通称デニーロが、私たちのSIGHTS HOTELの話を興味をもって聞いてくれていたんです。そこで、その人が「銀行常務のところに一緒に壁打ちをしに行きましょう!」と言ってくれて。こちらは、壁打ちということだったので、客観的な根拠やリスク分析、シミュレーションが盛り込まれた具体的な資料を用意せずに行ったんですね。

奈月さん:ただ、銀行常務は融資の話だと思っているから、私たちの資料や説明を受けて「一年間何も変わってないんじゃないか」と言われてしまって。それで、その夜周年パーティーに来て、ラディカルサークルのメンバーと会って「一年間何をしてたんだ」という話になったんですね。ただ、ラディカルサークルのメンバーは私たちが銀行へ訪問した話を聞いてないから、「えっ、どういうこと?」となって。

徹生さん:壁打ちのつもりだったので、特にラディカルサークルのメンバーには報告していませんでした。周年パーティーが終わってから、ラディカルサークルのメンバーからも「この1年間で色々議論したのに、何も伝えられていないよ」「銀行本店に相談するなら頭下げてお願いしに行くぐらいのタイミングでないとダメだ」と怒られてしまいました。

4周年イベントの手応えはどうでしたか?また、新たに感じた課題は?

奈月さん:多くの人がお祝いをもって来てくれてうれしかったですね。ただ、反省点は多かったです。前回の周年イベントを踏まえ、今回は一階のBARスペースだけでなく、二階のコワーキングスペースも使うことにしました。スペースが広くなれば、もっと人が滞留せずに交流が生まれると思ったのですが、一階や二階で各々が固まって飲んでいる感じになってしまって。

徹生さん:「他のイベントがあるから、この時間だったら顔出せるかも」「遅めの時間だったら来られるかも!」という声を受けて、「17時から22時の間は出入り自由!」としたのも良くなかったみたいで。いつ誰がどこにいるかわからない状態になってしまったんです。

奈月さん:オープンDAYみたいな雰囲気だったんですよね。周年パーティーは、いつもお世話になっている人たちに我々が感謝を伝える場だと思っていて。毎回その年の振り返りと今後の展望について発表するのですが、肝心のコアな人たちが散らばってしまって。

SIGHTS KYOTOのオープンさが、かえって裏目に出てしまったわけですね。

徹生さん:そうですね。「いつでも来て良いですよ」というSIGHTS KYOTOのオープンさが、よくない方向に振れてしまったなと。我々が理想とする空気を作り出せなかったのがすごく悔しかったですね。

奈月さん:指揮官に紹介したい人がいて、周年パーティーで引き合わせる予定をしていたんですね。ただ、その人は早めに周年パーティーへ来て、その人が帰ったタイミングで指揮官がきたんです。ただ、私は周年パーティーで頭がいっぱいになっていたので、紹介することが頭から抜けてしまっていて。

「これはやってもうた」と思って、平謝りして後日ご紹介する場を設けました。やはり、みんなが来やすくすればするほど、引き合わせるのが難しくなることを今回学びましたね。

徹生さん:今回、迎える側のキャパシティを超えた受け入れは難しいということを痛感しました。今後、ホテルの規模感を考えるうえで一つヒントになるなと思いました。

奈月さん:ただ、来てくれた人たちの多くは、「今回の周年パーティー楽しかったです」と言ってくれました。ただ、SIGHTS KYOTOに長く関わってくれている人たちは、「あれで良かったの?」「来てくれる人の種類は増えたけど、濃度が薄まっていないか?」と同じように疑問をもっていましたね。

徹生さん:僕らが、SIGHTS KYOTOのフェーズが変わっていることに気づけていなかったですね。「濃度が薄まっていないか?」という指摘は、まさに前回の取材で話したような「既存の方々との関係の発酵や深化があまりできていなかった」という我々が感じている課題にも通ずる部分でもあります。

次のステージへ。一年ぶりの「クレイジーキルト」開催

徹生さん:周年パーティーの数日後に別の場所でイベントがあり、そこにクレイジーキルトのメンバーである銀行常務や部長も参加していました。ちなみに、部長は家庭の用事で周年パーティーには来れなかったんですね。

奈月さん:去年の周年パーティーでは、部長がめちゃくちゃ大活躍してくれて。「SIGHTS KYOTOはホテルを開業しますよ」みたいにマイクパフォーマンスで盛り上げてくれたんです。部長に、4周年パーティーの話を報告したら「そろそろ、俺たちも呼んでよ!クレイジーキルトやろうや!」と言ってくれて。

徹生さん:そこで、ラディカルサークルのメンバーとも相談して、1年ぶりにクレイジーキルトを開催する運びになりました。金融教育家からは「そろそろ、ラディカルサークル以外のメンバーと壁打ちした方がいい」と言われて。以前お話ししたかもしれませんが、ラディカルサークルはあくまで議論プロセスの一つで、さらに議論を深めるなら次はインタープリター(解釈者)への壁打ちが必要になるんですね。

著書『意味のイノベーション』の図を参考に作成

ついに、1年ぶりのクレイジーキルト開催ですね。どのような議論をしましたか?また、メンバーからはどのような反応や意見が返ってきましたか?

徹生さん:この一年間で議論されたことの振り返りがメインでした。その話を受けて、部長からは「なぜホテルなのか」という問いと、「確かにソサエティファーストはわかりやすい」という感想をもらいました。

奈月さん:銀行常務は最終的な自分の役割はお金を貸すことだと思っているので、具体的な数字を知りたいし、情熱の根源を知りたがっていました。

徹生さん:それは、「ホテルやりたいんです」ではなくて「こういう課題に対して、自分はこうしていきたい」みたいな熱量ですね。誰が何と言おうとそれを実現させるという明確なビジョンやパッションがないと誰も共感しないということで。

奈月さん:つまり「なぜホテルなのか」というWhyが大事という話ですね。ただ、これって非常に難しくて。私たちは「世界一のホテルを作りたい」という思いからスタートしていますが、それ以上でもそれ以下でもない。深堀りしても出てこないんですよね。

徹生さん:クレイジーキルトの中でも、老舗企業の方や弁護士は「そもそもホテルやりたくてここまでやってきてはるんだから、そこは別に疑問に思わんけどなぁ」と最初から納得してて。本当に人によって受け取り方が変わるんですね。

奈月さん:指揮官が、ビジネスモデルの観点から「24時間プロデュースできる」と言ってくれたんですよね。RIKYUのような一棟貸し宿だとタッチポイントはチェックインの数十分だけ、SIGHTS KYOTOだと1Fのバーで長くても2〜3時間ですよね。しかし、ホテルだと滞在時間が長くなるので、24時間プロデュースできます。

徹生さん:確かにビジネスモデルとして考えると、その通りなんですね。ただ、それだと銀行常務は「本心ではないんじゃないか」と納得しない。今回議論する中で気付いたのは「京都の何を残したいか」は核の一つだと思っていて。

奈月さん:東山でやりたい、京都のソサエティで迎えたい、京都のソサエティに還元したい。その根底には、京都の営みや心の在り方を残したいという思いがあるんじゃないかなと思ってて。

ホテルの開業前にメンバーシップやコミュニティを立ち上げるという話は、引き続き議論されましたか?

奈月さん:議論しましたね。ただ、ここについても方向性が確定したわけではありません。結局、なぜこのメンバーシップやコミュニティの話が出たかというと、金融機関など対外的に実績を伝えるためなんですね。

ただ、労力を割いてまで1,000人、10,000人と会員を増やすことに今注力すべきなのか、そこに関しては割り切れない気持ちがありますね。確かに、金融機関や投資家から資金調達をするなら、実績となるものを積み上げて提案することが必要なのは理解しています。しかしながら、そもそも私たちは最初からその道を選んでいないんですよね。

徹生さん:宿泊施設を数十件運営して、そこで得た売り上げと信頼を元にホテルを開発する方法を否定しているわけではなくて。自分らが思い描くホテルを作るには、あえて京町家1棟貸切の宿泊施設1つとSIGHTS KYOTOを運営して、そこからホテルを作り込むルートが最善と考えているからです。しかし、一般的な方法ではないがゆえに、おそらく資金調達から逆算した実績作りやブランディングみたいな話とマッチしない気がしているんです。

資金調達をしようとすると、下手すれば今まで歩んできた道のりを戻らないといけなくなってしまう可能性があるわけですね。

奈月さん:ホテルを作るなら、本来はコワーキングスペースや企業誘致などのプロジェクトはやらなくて良いわけですよ。ただ、観光事業者として、この地域に根差しながら、ビジネスの面でも外から質の高い人たちを呼び込むことにも意味があり、それが他の事業者との差別化になると思っています。

徹生さん:腹くくってこのやり方を選んでるので、戻れないですし、このルートでたどり着かないと面白さも失われてしまうと思うんですよね。今、ひとまず考えているネクストアクションは、「何人か投資家の意見を聞いてみる」ことかなと思っています。

奈月さん:「なぜホテルなのか」「ソサエティとは何か」という深堀りも、結局、投資家に理解してもらうための言語化になってしまっていないかと思ってて。わかりやすい言葉に変換すればするほど、元々あった意味が削ぎ落とされてしまうんですよね。例えば、「ご縁」を英語に訳すと「リレーション」や「チャンス」となりますが、やはり意味合いが変わってくるじゃないですか。

言葉では表しきれない。SIGHTSが生み出す本当の価値とは

ビジネスの文脈に落とし込むと、本来その言葉に宿っていた意味が変わってしまうということですね。

奈月さん:ビジネスの文脈に当てはめて考えることがそもそも難しいんですよね。確かに、東山を盛り上げたいですし、ソサエティファーストでありたい。だからといって、「コミュニティ運営やソサエティ運営が事業としてやりたいことなのか」と聞かれたら、それは違うんです。SIGHTS KYOTOに関わることで、ソサエティが豊かになる、いい人たちとたくさん出会えて、こういう気持ちになるといった体験価値は伝えられるんですよ。ただ、お金や名誉など具体的に何が手に入るのかと問われると、それは「人それぞれ」。ビジネス的には抽象的な答えになってしまうんですね。

徹生さん:僕らは、言葉ではなくSIGHTS KYOTOという現場で表現しているんですね。だから、我々が作っている世界観や接客、雰囲気などを実際に見て感じてもらった方が早いと思うんですよ。とはいってもビジネスなので、しっかりロジックも通さないといけないのは分かっているのですが。

今回の話し合いを通じて、最終的にどのような方針・結論に至りましたか?

徹生さん:率直にいうと、着地しなかったんですよね。金融教育家から「肩肘張らずに、話をした方が良さそう」という提案があって、次回は麻雀しながらカジュアルに話す回になりそうです。

奈月さん:今回に限らず、ソサエティの言語化が毎回議題にあがるんです。ソサエティは流動性が高いものだから完全に言語化するのが難しいんですね。今回ソサエティを明確にするなかで、「心の株主」的な存在が肝なのではないかという話になりました。

「心の株主」とはなんでしょう?

奈月さん:SIGHTS KYOTOらしい空気を作ってくれているのであれば、それはソサエティにいる人になるかなと思っています。ただ、その人らとクレイジーキルトのメンバーを同列に扱うことはできなくて。では、周年パーティーの雰囲気に違和感をもった人たちは何なのかというと、それはまさに株主的な存在になるんじゃないかと思ったんです。あくまで、お金は出資していないから「心の株主」ですね。

徹生さん:今後、周年パーティーをする場合は、「絶対空けといてください」と事前に日程をおさえてもらって、濃いメンバーを集めなあかんなと思いました。

奈月さん:新しい人を呼び込むのも大事ですけど、それと同じくらい「心の株主」のような人とのつながりや関係をもっと深く、発酵させていく必要があるなと思いましたね。

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