SIGHTS KYOTOコワーキングスペースの契約企業のメンバーやニシザワステイの取引先、SIGHTSに関わる方々に向けてお届けするビジネス対談企画「SIGHTSNESS」。
第5弾のゲストは、株式会社ワンキャリアで採用・人材領域に携わり、京都で採用ウルトラキャンプ(経営者・人事向けカンファレンス)やなどのプロジェクトにも関わってきた寺口浩大さんです。
本対談では、「採用とは何か」「働くとはどういうことか」を出発点に、組織と個人の関係性やそしてこれからの採用のあり方について、語っていただきました。SIGHTS KYOTO代表・西澤徹生が、その思考の軌跡をたどります。
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ムードメーカーとしての原点

徹生:本日はありがとうございます。まずは寺口さんのプロフィールから、簡単に教えていただけますか。
寺口さん:兵庫県伊丹市で生まれました。父は教師、母は専業主婦で、三兄弟の長男です。家庭や幼稚園で「自分で決めていいよ」という育てられ方をしていたので、小学校で時間割や席が決まっているのがどうしても苦手でした。
徹生:学校が合わなかったんですね。
寺口さん:授業で座り続けて話を聞くのがおもしろくなくて、友達は多かったんですけど、オカンに「学校おもろない」ってボヤいてましたね。それで塾に通うようになり、流れで中学受験をして、奈良の中学まで2時間かけて通うことになりました。いわゆる通勤電車の大人の「顔が死んでる」問題ってあるじゃないですか。大人になって気づいたんですが、仕事は楽しいけど通勤がおもんないって人もいるんですが、そんなことはわからず。こんな大人になりたくないなと思って。中学からはバンドばかりしてましたね。ポップシーンじゃないやつを背伸びして聴いて、パンクとかUKロックとかコピーしてました。家ではこっそり「モーニング娘。」とか聞いてましたけど(笑)
徹生:(笑) 大学は京都大学に進まれたんですよね。
寺口さん:はい。中高時代は、ストリートライブとかオーディションとかやってみて、バンドで食べていくのは難しそうだとうっすら思いつつ勉強も頑張らないという中途半端な日々を過ごしていました。ですがあるとき、当時の学校の理事長の講話を聞いて影響されて、猛勉強を始めたんですよね。ありがちですが、大学は偏差値と得意教科だけで理系に入っちゃったので、研究に興味はなくて、ちょっと電池を触って卒論を”ぺっ”て出して卒業しました。モノをつくるのも好きですが、場や空気をつくるのがもっと好きで、振り返ると、子どもの頃からずっと「ムードメーカー」的な役割にこだわっていたと思います。引っ越しがきっかけだったんですが、どうやったら場になじめるか、場を盛り上げられるか、周囲を観察しながら考えていました。この集団の中における自分は、どのポジション、どのキャラ、どの役割をやれば、その場が一番おもしろくなるのかという視点は、小学校からずっと変わらないですね。
徹生:すごい小学生!大人ですね。最初の就職先はSMBCでしたよね。
寺口さん:最初は祖父の影響もあり「社会のムードを良くする仕事(広告代理店)」「スーツをカッコよく着れる仕事(百貨店)」というポイントで絞って就活をしていたんですが、途中から「苦手なことを克服して自信をつけたい」という3つ目のポイントが生まれて、SMBCを受けたんです。ですが体調を崩して働くどころか人間的な生活もできなくなり、20代は転職を繰り返しました。「なぜ働くのか・なぜ生きるのか」を根本から考える時間でしたね。
徹生:今の株式会社ワンキャリアで働くきっかけは何だったんですか?
寺口さん:転職を繰り返すなかで、人間と働くことを諦めつつあった時期だったんです。「仕事」になると、人格が豹変する人や、仕事は苦しいものという前提の人が多いと感じて。「楽しい」と「楽」を混同して捉えてしまい、楽しかったら=楽してる。笑ってたら=頑張ってない。という風潮をあまりにも強く感じてしまった。僕は、楽しく仕事していい、オフィスで笑っていいと思う。そこに大きなギャップがあったんです。「僕のような人も自分を殺さずに仕事できる会社があってもいいと思う」という話を、当社の面談で話したんですよ。素の自分で、本音で対話を繰り返した結果、一緒にやりましょうよと言ってもらったんです。
閉じられたHR部門への危機感

徹生:ここからワンキャリアさんや寺口さんの本分である「採用」について伺います。採用そのものの構造については、どう感じていますか。
寺口さん:この10年ずっと感じてきたのは、企業の採用部門やHR部門に漂う停滞感です。閉じているんですよね。「採用周りは人事がすべてやれ」という空気が強く、他部門と分断されているケースが多い。さらに、他社に対しても情報を隠す傾向があります。
徹生:マーケティングやPRとは真逆ですね。
寺口さん:そうなんです。マーケやPRの人たちは、社内だけでなく他社とも情報をシェアして学び合っています。失敗も共有する。でもHRは全体として「資料を見せたくない」「手の内を明かさない」。「採用マーケティングって言うけど、マーケターと話したことあります?」と聞くと、「いや」と。他領域と交わろうとする習慣がないように見えます。
徹生:そこから出てきたキーワードが「開く」と「こえる」ですね。
寺口さん:はい。採用を開く。そして、こえる。まずBEYOND(越える)ですね。BEYONDの結果が、ULTRA(超える)になったらいいなと話していました。
徹生:それが2025年に京都で開催された「採用ウルトラキャンプ」ですね。
寺口さん:そうです。「キャンプ」には「本音で話そう」という意味も込めています。採用をテーマにしたイベントになると、どうしても建前で固いものになりがちです。だから「非日常空間で本音で話す」場として、キャンプという形にしました。
徹生:京都で開催されましたが、なぜ京都だったんですか?
寺口さん:いろんな歴史と文脈が重なったんです。もともと東京以外の場所でやりたいと思っていました。ワンキャリアが創業当初京都で大学生向けのイベントをしていたこと。3年前から関西拠点ができ、京都市の方々とお仕事するようになったこと。あるとき、POTLUCK YAESUの方から、僕の出身大学が京都ということもあって、「Kyo-Working | 京ワーキング」のイベントに登壇してほしいというお誘いをいただいたんです。そのイベントに京都市の誘致推進室の方がいて、意気投合したんですよ。それが運命の出会いだった。
徹生:どんなお話をされたんですか?
寺口さん:京都は「学生の街」と言われるくらい学生が多いのに、多くの学生は京都で働くことへのイメージがない。ただ大学に通うためにいる場所になっている、という課題を聞きました。京都で働くイメージがつかないまま出て行っちゃうのはもったいないなと。確かに僕自身もそうで、当時は卒業後も京都に住んだり京都の企業で働いたりすることは考えもしなかったんですよね。また、京都の企業が採用に困ってることも聞いたんです。ワンキャリアでもできることがあると思い、プロポーザルに応募して、京都市とともに、プロジェクトを始めることになったんです。それが京都と深く関わることになったご縁の始まりでしたね。
東京と京都の採用市場

徹生:では最初は、行政とのプロジェクトに取り組んでいたんですね。
寺口さん:ええ。ですが、東京でのやり方を持ってきてもうまくいかなかったんです。東京には十数年いますが、暮らしやすい場所ではないんですよ。満員電車もすごいし、余裕もあまり感じない。みんな何かの目的があって、高い家賃払って人混みの中で戦いに来ている場所なので、関西出身の自分からすると、息苦しいなとは思います。
徹生:京都は違うように感じるんですか?
寺口さん:京都はウェルビーイングな街だと感じます。学生時代、すごくノビノビできてたんですよ。僕の当時の印象は、おじいちゃん、おばあちゃん世代と若い人の街。高齢の方は、「若い奴は元気にチャレンジするものだ」という感じで構えてくれていて、若者が自由に何でもやれる自由な街だと思った。それに、「京都という共同体の中の自分が、京都のために何ができるか」という視点を持っている人がいる。
徹生:それは美化しすぎじゃないですか(笑)
寺口さん:(笑)もちろん全員ではないと思います。僕がそういう方々とばかりご縁をいただいていたのかもしれない。でも皆東京で働くのはなぜか?
「らしさ」と「すごさ」

寺口さん:東京で働きたいと思うのは、いろいろな理由があると思うんですが、「自分らしく生きる」ことに根付くものも一因だと思うんです。「自分らしく生きたい」ってよく言うじゃないですか。自分らしく生きるためには「強さ」も必要で、強くなるなら「東京一択」という概念があるのかなと思うんです。「らしくあるための過程」として、「すごくならなければいけない」という。極端にいうと、東京はすごさ、京都はらしさ。まず、すごさを身に付けるための場所=東京という共通認識で人が集まっているのかなと。でも、多くはすごさを手に入れる過程で、すごさ中毒になってしまう。ドラゴンボールでいうブロリー状態です。1000万円稼いだら2000万円……となる。
徹生:確かにそうですね。ベジータがブルマと結婚したように、人間らしさがある方が豊かですよね。
寺口さん:僕自身20代の経験から、自分らしくいながら強くなれる、というのも両立できるのではと思うんです。
徹生:この、「すごさ」と「らしさ」は個人だけじゃなく企業にもありますよね。
寺口さん:ですね。例えば採用の説明会とかでも、年収やキャリア、条件など、すごさ=スペックの話ばかりになる。すごさの説明を口頭でしているんですがそんなのはテキストや図でよくて、人が語るべきなのは「らしさ」なんですよね。どんな人たちがいて、どんな関係性で、どんな空気で働いているのか。それを伝えないと、ミスマッチになる。京都に来て、人間らしく働くためには「すごさよりらしさが大事」だと気づけたんですよ。
徹生:京都の老舗企業で働く方に「年収倍になるなら転職する?」と聞いたら「転職しない」と答えた方がいたんです。この会社で自分がやりたいことができる、というのは年収という「すごさ」ではないんだなと。
寺口さん:その問い、めっちゃいいですね!その方は「らしさ」を選択したということですよね。
仕事における「らしさ」と「強さ」のバランス

徹生:僕は土台として「強さ=すごさ」があった方がいいと思って一般企業に入社し、強さを得て辞めて、「らしさ」に向かったんです。ただ、今はいろんなやり方がある。そこに採用する立場になった僕たちも悩んでいて、「らしさ」と「すごさ」の見せ方・使い方がまだうまくないんですよね。
寺口さん:なるほど。そうですよね。僕は「らしさ」を我慢させる必要はないと思うんですが、100%の「らしさ」は、消費者としてプライベートでしたらいいとも思うんです。そもそも演奏できないとバンドはステージに立てないし、トラップやシュートができないとサッカーの試合には出られない。「らしいプレー」はある程度のクオリティでできるようになった人へのご褒美なんだと思います。主語も目的語も「自分」でやりたいなら、組織で働くことを選ばないほうがいいと思います。
徹生:組織には、別の主語がある。
寺口さん:はい。組織には「会社」や「チーム」という主語や目的語がある。みんなで稼いで、みんなで利益を分けているわけですよね。どこからお金をもらっているのかを考えると、やっぱりちょっと「らしさ」をやるにはタイムラグはありますよね。お金をもらっている立場と、払っている立場では、「らしく生きる」のロジックは違うと思います。
徹生: 僕らは、「らしさ」が一番の価値と思ってるんです。ホームページを見てるだけより、会ってたった20分喋っただけで、今後付き合うか、もうこれ以降会わないか決まるじゃないですか。こういう雰囲気や波長が互いに合うと感じている関係性の方たちをソサエティって呼んでるんです。コミュニティではなく外部の方を含めてソサエティ、みたいな。条件云々ではなく、「なんかおもろいよね」という感度で惹かれ合う感じ。このあいまいな度合いを大事にしてるんです。だから採用の現場でも「らしさ」をPRするんですが、そうすると「楽しそう」という印象は持ってくれる。でも実際働いてみたら、「らしさ」100%だけではなく「強さ・すごさ」も求められるんだ…とギャップを感じられることも多い。京都は東京に比べると、「すごさ」で勝負できない分、「らしさ」をアピールする企業が多いと思うんで、京都にはこういう実態があるかもしれませんね。
採用の現場で起きていること

寺口さん:それは年齢などの傾向がありますか?
徹生:若い子のほうがいますよね。
寺口さん:なるほど。SNSでオンラインでも、社会にはオフラインな人が増えているような気がしていて。僕は運が良かったなと思っていて。インターネットやSNSやAIがなくても生きて来られたし、それらができてよくなったことや、悪くなったことを本能的に知覚して絶妙にバランスをとりながら生きている。インターネットに載ってない情報があることも知っているし、AIに頼りすぎたら思考力を内製できないことも知っている。特にSNSはややこしくて、社会とオンラインでつながっていると思ってしまう。便利なおもちゃくらいで付き合っておいたほうがいいと思います。必需品にすると心が死ぬし、承認欲求の奴隷の勘違い人間になってしまう。コミュニティに所属しながら、自己完結っぽい「らしさ」の追求が先立ってしまう。そもそも社会とつながらないと、「らしさ」なんてわかりません。「らしさ」って社会との接続の中で自然に生まれるものだと思うんです。
徹生:めっちゃ分かります。ワンキャリアさんではどんな人たちを採用しているんですか?
寺口さん:体育会出身と美大・音大出身の方の話題が増えています。何より今はAIが台頭したことで、各企業が求める人材要件は明らかに変わりましたね。「頭が良いけど意地悪」とか、「何かに詳しいけど、性格は微妙」みたいな人って、これまで仕方なくみんな付き合ってきたじゃないですか。一周回って、素直・元気・メンタル・好感度!とかの価値が見直されている感じがします。特に人間関係においては、経験の格差が開いています。体育会系の人のよさって前は「体力とストレス耐性」みたいな言葉とセットで語られてきましたけど、今後はそれ以上にコミュニティの中で縦横斜めの人間関係構築の経験をしていることが大きいと思います。それに、これだけ若手の休職や退職のニュースが出ると、「ワンパンで潰れない」ことの価値が相対的に高まっているんだと思います。
徹生:僕らも体育会系のアルバイトスタッフを採用しているんですよ。指導したり叱ったりしても響かない、折れてしまう子もいる中で、体育会系のスタッフはちゃんと巻き返してくれるっていう信頼がある。だからお互いやりやすいんですよ。
気軽に通えるSIGHTS KYOTOの「気」
徹生:最後に、SIGHTS KYOTOを気に入ってくださっている理由をお聞かせいただけますか?
寺口さん:一言で言うと、気がいいからじゃないですかね。気って人しか作れないと思う。ここは中心にいる人たちと、集ってる人たちの気がいい。中心にいる人たちは気がいいけど、集まっている人たちはそうじゃない店もあるなって思うんですが、それは多分、利用する理由が不自然だからじゃないかなと。サイツに邪気を感じたことがないです。ここは西澤夫妻が、笑顔でありながらも、いてほしい人がいやすい空気を作ってるんじゃないかなと思います。
徹生:大正解!僕らそれを「ダイナマイトバディ戦略」って言ってるんですよ。別名「ボンキュッボン」。上は誰でもウェルカムな「ボン」ではあるんですけど、「キュッ」という部分がまさに空気感。そこを通ったら、広がるソサエティがある。寺口さんも一瞬で通っていきましたね。(笑)
